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賃貸物件

53 買い替えのポイントは4つある

【悲喜こもごもの買い換え体験】

 途中で、綱渡りをするような不安を覚える瞬間があるかも知れない。住まいの買い替えは常にそうした危うさと背中合わせのところがある。「購入物件の代金をはらわなければならないのに売りのほうがなかなか進まず資金ショートを起こしてしまった」「住宅の引き渡しと入居の時期がズレてしまい賃貸アパートに一時仮住まいした」

―――こんな体験をした人も少なからずいるのである。買い替えの全体的な流れを体験談を通して把握することにしよう。

 

■ 住宅が値下がり

 「なんとしてでも早い時期に広い住まいに買い換えなくては――」。日に日に身重になる妻の綾子さん(32歳)を見て大島清さん(37歳)は買い換えを決意した。第2子の出産予定はその年の12月。はたして新しいメンバーを加えた家族が新居で正月を迎えられるか。

 「厳しいですね。詳しく調べてみないと明言はできませんが……ご希望に沿えるかどうか」。モデルルームを訪ね、担当者に買い換えの相談をしたときの返答だった。大島さんの胸算用では、最低でも4000万円で自宅を売却できるだろう。ローンの残債を差し引くと1500万円ほど手元に残る。これに積立預金の500万円を足して頭金は2000万円。なんとかいま検討している6000万円の新築マンションが買えるはずだ。

 ところが、A不動産の担当者は「住宅市況が低迷しているので高く売れてもせいぜい3700万円」というのである。
 「だって3年前に買ったときは3860万円だったんですよ」。大島さんは喉まで出そうになるのをぐっと抑えた。

 

■ 住む家がない

 数日後、A不動産関連の仲介会社から担当者がやってきた。2LDK、50㎡の大島さんのマンションをぐるりと見たあと、テーブルに持参した周辺の取引事例を提示した。
 「社に戻って検討し直しますが、おおまかなところを打ち明けておきますと3500万円から3700万円の間の金額になると思います。もし、早めに売却したいというご希望でしたら思い切って低めの価格で売り出したほうが無難でしょう。市場が動いているときでしたら、とりあえず高めに設定して買い手の反応を見ながら価格を調整していくという方法がとれるのですが、この時世ですからね、避けたほうが賢明でしょう。ズルズル値下げして結果的に最初から安く売り出していたほうが高く売れたというケースがありますから」

 大島さんは迷った。担当者がアドバイスする低めの売り出し価格3500万円では、短期間のうちに確実に売れたとしても購入を考えている6000万円のマンションに手が届かないじゃないか。どうしても500万円足りないのだ。

 考えあぐねた末、第1希望の物件はあきらめた。だが、自宅の売り出しのほうは専任媒介契約で依頼することにして、購入物件探しを再開。自宅の買い手はすぐに決まった。5月末に売買契約を結ぶ。売却価格は3500万円ジャスト。相場よりも低めの売り出し価格だったので買い手からの値引き交渉は一切なかった。要望は一点のみ。「8月末までに引き渡してほしい」だった。大島さんは快諾した。

 平日は物件の情報集め、週末はモデルルーム歩きという日課が始まった。「1、2ヵ月もあれば希望にかなう住まいが見つかるだろう」。安易に考えたのがいけなかった。「これだ!」と思う物件もあったが、抽選にもれてしまった。もう時間がない。このままだと住む家がなくなってしまう。

 

■ 救いの神が現れた

 7月下旬。大島さんは勤務先から社宅入居の申請書を持って帰宅した。「1年~2年ぐらい社宅住まいになってもしようがないかなあ」。苦しそうに打ち明ける大島さんに、目立ちはじめたおなかをしきりにさわりたがる長男のタカオくんをあやしながら、妻の綾子さんは「焦って不満足な住まいを買ってあとで後悔するより、のんびりやりましょうよ」と応じた。

 そんなとき勤務先で同僚が「希望に合うかどうか分からないけど…」といって、1冊のパンフレットを開いた。「B不動産の物件なんだけどキャンセルが出たらしいんだよ」。同僚がB不動産に勤めている友人から紹介を受けた物件だった。1戸だけが残ってしまったのだが、いまさらその1戸のため広告を打つわけにもいかない。そこで新規に分譲したときよりも少し安めの価格に値引きして、縁故関係を中心に口コミで売ろうとしているらしい。建物がほぼ完成しており、8月中旬以降なら入居できるという。

 さっそく現地に出向いた。最寄り駅から徒歩5分(この最寄駅から3つ先に綾子さんの実家がある)。間取りは3LDKで70㎡。売値は5500万円。大島さんたちが探している物件だった。
 いま大島さんたちは新居で新しいメンバーの誕生を待っている。

 

【4つのステージをクリアしよう】

 買い換えをどこから着手するかはさまざまだ。まず購入物件を探し、それをきっかけにして本格的に自宅の売却を仲介会社に依頼する方法もある。また、自宅を確実に売却できるというめどが立ってから、購入物件探しに入るケースもある。どちらの方法が正しいということはない。手持ちの物件の条件や住宅市況などの情勢に合わせて、柔軟に対応するというのが正確だ。大島さんの場合は購入物件探しからスタートしたが、本人たちの意向に反して結果的に自宅の売却を先行する形になった。
 大きく4つのステ―ジに分けられるだろう。

~第1ステージ 全体計画を立てる~

 ここで重要なのはローンの残債がいくらあるかを把握することだ。金融機関から送られてくる返済明細書の残高の欄を見れば簡単に分かる。売却代金からこれを差し引いた金額に自己資金を足した分が頭金となる。仮に2500万円の残債があり、3500万円で売却できると手元に残るのは1000万円。これに自己資金を加えた額が頭金となる。ただ、売却時には税金や仲介手数料などがかかるのに加え、買い換え物件の購入に際しても諸費用が必要だ。これらを頭金とは別に準備しておくことを忘れないように(「61 どんな費用がかかってくるか」→)。

~第2ステージ 物件を売り出す~

 自宅がいくらで売れるのか。売却価格によってその後の購入計画は大きく違ったものになってくる。住宅情報誌などを活用して、どのくらいで売れるのかを自分である程度予想を立ててみること。そのうえで仲介会社を訪ねてみよう。
 仲介会社では「不動産流通機構」から情報を得るなどして、数多くの取引事例を蓄積している。これらの情報をバックデータにしてあなたの住まいを査定。このときに提示された価格をベースにして売り出し価格を決定するのである。物件査定は無料だ。なるべく複数の仲介会社に査定を依頼し、各社に価格の根拠を聞いて納得のいく説明が得られた会社とだけ、次に述べる媒介契約を結ぶようにしよう。

 売り出し価格が決まると「貴社に販売活動をお願いします」という趣旨の契約を締結する。これが「媒介契約」だ。媒介契約には3つのタイプがあるので、「56 「専任」「専属専任」「一般」媒介契約はどれを選ぶ」をよく読んでそれぞれの特徴を把握したうえであなたの条件に合ったものを選ぶようにしたい。

~第3ステージ 買い主と売買条件の折衝をする~

 仲介会社はあなたの住まいを指定流通機構に登録したり、住宅情報誌やチラシなどに広告を出して販売活動を開始する。見学者の来訪もたびたびあり、落ち着かない日々を送ることになるかもしれない。見学者があなたの住まいを気に入ると、仲介会社を通じて買い付け依頼書が届く(口頭の場合もある)。買い付け依頼書には、購入希望価格や代金の支払い方法、物件引き渡しの希望期日などが記載されている。この条件に異存がなければ売却を承諾し、売買契約を結ぶ日時と場所を決める。契約時には、売買契約書のほかに、添付書類を事前に用意しておく必要があり、そのための手続きもあって、結構慌ただしいものだ。

~第4ステージ 売却代金を受け取り、物件を引き渡す~

 売買契約の締結に先立って行われるのが重要事項説明だ。売り主・買い主が同席のうえ、仲介会社の担当者が双方に重要事項説明書と添付資料を渡して説明を行う。説明内容に納得すれば互いに署名・押印し、その後に買い主から手付金を受け取って売買契約書を取り交わすことになる。

 売買契約が済んだらこれまで借りていた住宅ローンの解約を金融機関に申し出て、自宅に付いている抵当権を抹消する。ローンの解消・抵当権の抹消を行うために残債をすべて返済する必要があるが、このときの資金をだれが負担するかは契約書の内容による。買い主から受け取った売買代金を充当して抵当権を抹消し、物件を引き渡すというのが一般的だ(同時決済という)。買い主の資金繰りの関係で、残金決済・物件引き渡し前に抵当権を抹消する必要がある場合は「つなぎ融資」などを利用して、あらかじめ抹消しておくこともある。このときはつなぎ融資の利息は売り主と買い主で折半するなど話し合いで決めることになる。
 以上が売却の一連の流れだが、このなかでポイントになるものを次に述べていくことにしよう。